君から僕へ
・・・おい、あんた。
・・そうだよ、あんただよ。
前3列に並んで歩いている友達の輪に入れずに後ろをテクテク付いて歩いているあんただよ。
なーに、怪しいもんじゃない。
そりゃああんた、こんな年末の活気ある飲み屋街で下むいて歩いてる若者見つけりゃ声の一つもかけたくなるものだがね。
あたしゃね、あんたを21年見てきたんや。
わかるかね?21年もあんたを見てりゃ愛着の一つも湧くがね。
いつ声をかけるべきか悩んだけれどもそろそろあんたも気付いていい頃や。
あんたはヒトに何を求めてるんや?
あんたは人が自信を持たせてくれるとでも思うとんのか?
確かにヒトはあんた以外のヒトを分かりやすい言葉で褒めることがあるかもしれへん。あんたの目の前で。
でもそれは彼がわかりやすい良さを持った人間やからや。
言葉のチョイスがうまい。だから話が面白い。一緒にいて楽しい。
かっこいい。かわいい。ノリがいい。だから人気者。
みんなわかりやすいやろ?褒めやすいやろ?
悪口を言うつもりや全然あれへんけど、言っちゃうと口下手なあんたでも褒められるで?ちゃうか?
あんたはわかりにくい良さを持った人間なんや。
あんたはええ人間や思うで。誠実や。真面目や。他のヒトが汚れていく部分を芯に残しとる。21年あんた見ててわし思うわ。
でもそんなん他のヒトからすれば詳しく見えへんねん。いい日本料理店のご飯の味の良さを即座にあんたはヒトに説明できるんかいね?
なんかよう分からんけどうまい。そんなんちゃうか?
あんたの場合もせやねん。なんかようわからんけどええ人やねん。
それにあんたはたとえヒトに褒められようが、奥底では信じてないで。聞いてないんや。響いとらんねん。
自信がないからその褒め言葉、嘘や思うねんな。
もっと素直になろう。
自信を即座に持て、とはよう言わん。
でもな、ヒトに求めちゃいかんよ。
その友達もしんどなるよ。そして当然求める側のあんたもきついはずや。求めても帰ってこない返事が一番苦しいんや。
自分を褒めよう。もっと自分を大事にしてやろう。
あんたはあんたでええんや。あんたのままでええんや。ええ味しとるんや。
あとな、あんた自分の顔が嫌いで嫌いで仕方ないって言うてたよな。
おじさん、あんたの顔嫌いやないんや。ほんまやで?
言うて21年間の付き合いや。愛着だけかもしれんけどな。ははは。
ええこと教えてやろうか?
おじさんまたしばらくあんたの前からいなくなるかもしれへんからな。手土産や。
なにかが欠落してるひとはなにかに突出してる。
これ、もしあんたが自分になにかがない思うんやったら大事に持っとき。
不得手は得意の裏返しや。
いい年をな。下はなるべく向くなよ。おじさんとの約束だぞ。